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【農業界のスゴい人】農機具修理のPRO・堀田英明さん

農業カルチャーを支える、さまざまな分野のスペシャリストに会いに行くこの企画。第一回となる今回は、カインズ桑名店の農業資材専任社員・堀田英明さんに話を聞いた。堀田さんは、農業知識と電気工学の知識を兼ね備えた農機具修理のスペシャリスト。周辺エリアの農業関係者から絶大な信頼を集める特殊な技術はどのように育まれたのか。その秘密に迫る。

インタビューに答えるカインズ桑名店の堀田英明さんの写真

Text:TSUCHILL編集部 / Illustration:山本和香奈


大手ホームセンター・カインズの桑名店で、農業資材専任社員として活躍する堀田英明さんのもとには、プロの農家から家庭菜園を楽しむ人までが、ひっきりなしに訪れる。農機具修理のスペシャリストである堀田さんの技術を頼ってのことだ。

三重県桑名市の農家で生まれ育ち、電気工学に関する知識も持ち合わせる堀田さんは、この街で農芸に関わる人たちにとって、このうえなく強い味方なのだそう。

カインズの店舗を駐車場から見たイラスト

「店内の一角に設けられた修理工房には、草刈り機や耕運機、チェンソーや粉砕機なんかも持ち込まれます。ちょっとした故障修理や調整ならすぐに対応できるので、重宝してもらっているんだと思います」

堀田さんはホームセンターのスタッフとして働きつつ、家業であるみかん農園や水田の運営にも携わる、いわゆる兼業農家。農業従事者として日々情報をアップデートしながら、カインズ桑名店の顧客にフィードバックしている。

そんな堀田さんの最大の強みである「機械に関する知識」を習得した過程がおもしろい。

「昔から機械に興味があって、ラジオをバラしたり無線通信を楽しんだりしていたんですが、私がまだ子どものころ、専業農家だった祖父がポロっと言ったんです。『これからはエレクトロニクスの時代だぞ』って。おそらく祖父は私に『お前は農家を継がなくてもいいぞ』ということを伝えたかったのでしょう。そのおかげで私は、後ろめたさを感じることもなく、電気・機械関連のキャリアを思い描くようになりました」

地元の工業高校の電気科を経て、大手電機メーカーに就職した堀田さんは、製品の品質管理やシステムエンジニアリングなどを経験し、その道を究めていく。その一方で、定期的に実家に戻り、農作業を手伝うことも忘れなかった。

時期によっては、平日は勤務地である大阪で働き、週末には農作業のために桑名に舞い戻る、といった生活も経験した。不思議と、会社員としての激務と肉体労働を伴う農作業の両立に不満はなかったという。

「自分が兼業農家だという自覚はなかったですね。特別、農作業が楽しいとか、やりがいがあるとも思っていなかった(笑)。子どもの頃からやってきたので、当たり前の日常でしたし。ただ、頻繁に生まれ故郷に戻り、自然の中で体を動かすということがストレス解消と心の癒やしにはなっていたかもしれません」

農園で、緑色の葉が茂った木から、オレンジ色の果実の収穫を行う眼鏡をかけた1名の男性を描いたイラスト

転機が訪れたのは堀田さんが50代に突入した頃。会社の早期退職者募集に手を挙げ、第二の人生を歩む決意をしたのだ。理由は極めてシンプルで「何か他のことをしてみたかったから」。

同業他社からの引き合いもあったが、堀田さんは故郷に帰ることを決め、農家を継ぎながら地元のカインズに身を置くことになった。30年余り培ってきた電気工学の知識を生かすことは、ほとんど考えていなかった。

「次の仕事を考えた時、農業に関することだったらある程度の知識もあるので、ホームセンターの資材売り場ならお役に立てるかなと。でも、実際に売り場で働き始めてみたら、意外なことに農機具に関する修理の相談が多いことに気付いたんです。

当時は私たちも、メーカーに修理対応を丸投げするしかなくて、お客さんは時間もコストもかかっていました。些細な故障でも、部品交換となると1カ月くらいメーカーに預けなければらないうえに、結局は新しい農機具を買ったほうが安く済む、ということもありました。さすがにそれは不便だなと思って、店内に修理工房を設置することを要望したんです」

転職を決意してからおよそ15年。電機や機械に関する知識が、結果として予想外の場面で役立つことになり、今や堀田さんは農芸に関するアドバイスから農機具の細かな修理・サポートまで、全方位を網羅する唯一無二の存在になった。(※1)

カインズの修理工房のイラスト

「最終的に農業に戻ってきた、という感じですね。ちょっと変わった経歴になりましたが、何の後悔もありません。もし生まれ変わっても同じ道を歩むんじゃないですかね。

わざわざ来店し、私を指名してくれるお客様がいらっしゃるのは、とても光栄なことです。農業や農作物に関わる方々に対して、何かしら貢献ができているならうれしいですね」

堀田さんのスマートフォンには、自分の畑の状態を記録したたくさんの写真と一緒に、かわいらしい孫の写真もストックされている。地元民から信頼を集める農機具修理のエキスパートも、私生活では優しいおじいちゃんなのだろう。

かつて「これからはエレクトロニクスの時代だ」とつぶやいて、堀田少年に将来への道を示してくれた先々代のように、堀田さんもいずれ、幼い孫に何かを伝える日が来るのだろうか。

「もしそんな機会があったら『自分の好きなように生きなさい』と伝えるでしょうね。私自身も好きなことをさせてもらったから趣味が仕事になり、今、誰かの役に立てているんだと思います。

息子も、娘も、孫も、自分の好きなことを究めてくれたらいいなと思います。自分のために頑張ったことが、いつか誰かのためになるはずですから」


(※1)農機具の修理は、「修理工房」のお取り扱いがある店舗限定のサービスです。来店前にあらかじめ最寄の店舗までお問い合わせください。店舗検索はこちら

TSUCHILL編集部

暮らしの中に土いじりを。 家庭菜園や農作業を趣味として楽しむライフスタイルメディア「TSUCHILL」。
土いじりの”たのしみ”を拡張し、もっと広く深く愛されるカルチャーに。 #ツチる

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