畑と仲間と未来へ。より良く生きるためのライフスタイルとは
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広大な農地が連なる風景をバックに、理想の生き方を追求し、充実した日々を送ろうとする人々がいます。「K3+」(ケースリープラス)は、「Live the life」というコンセプトを掲げ、スローで充実感に満ちた生き方を実践する集団。発起人である大野慧さんが、追い求める理想の暮らしと、それを形にするために手掛けていることについて語ってくれました。
芽を眺めるだけで笑顔になれる、そんな穏やかな日常もある

「毎朝5時に起きて、朝日を眺めながら野菜に『おはよう』というのが日課になっています」
自然と触れ合いながら、仲間と知恵を出し合い、癒やしに満ちた日常を送る。大野慧さんが憧れる、そんなライフスタイルを実現しようと始動したのは、2023年のことでした。
本業の会社員としての仕事の傍ら、手始めにチャレンジしたのは、家族が趣味程度に育てていたニンニク、春菊、ほうれん草の種まきの手伝い。
本格的な農業経験のなかった大野さんでしたが、「自分で食べるものを自分で作る」という作業は、想像以上に充実感をもたらしてくれました。
やがて大野さんの周りには、幼馴染をはじめとする仲間が集まり、”理想の生き方”を共有できる同志が増え始めます。
大野さんは、仲間とともに新たなライフスタイルを構築していく活動の幅を広げることを考え「K3+」というチームを立ち上げました。
現在は「K3+」をひとつのライフスタイルブランドとして確立させ、自家製有機野菜の販売や農業体験イベントの運営などに繋げています。

自らが20代の頃に経験した海外生活で見つけた理想の生き方を、故郷・茨城県利根町をベースに再現しようという大野さんの試みは、多岐にわたります。
所有する畑で大根、カブ、水菜、ほうれん草、ビーツといった多種多様な野菜を育てるだけでなく、廃材を利用して小屋を建て、コンポストで肥料を作り、土いじりを満喫しながら、「農」と交わる。
その現場には、「K3+」の仲間や、地域の人々との触れ合いがあります。
「いろいろな人たちの協力もあって、昨年は、マルチの張り方を学びました。今年はマルチの代わりに藁を使えないかと思っています。
できるだけ自然に寄り添った方法で作業できたらなと。ユンボやトラクターを使うこともありますが、鍬で耕すことも大事だと思っています。重労働ですけどね(笑)」

農業未経験からのスタートでしたが、今では「発芽のタイミングでは、生えてきた野菜の芽を見るだけでニヤけちゃう。朝からハッピーな気分になります」と言うほど土いじりにのめり込む大野さん。そんな彼を突き動かす原動力は、どんな“理想”なのでしょうか。
異国で体験した極上の毎日を、故郷に落とし込む

自然豊かなうえに農業を営む人も少なくない茨城県の利根町に生まれた大野さんは、本人いわく「ごく普通の会社員の家庭」で育ちました。
実家は代々農業を営んでいたわけではなく、農作業や土いじりに興味があったわけでもなかったといいます。
「祖父母が家庭菜園をやっていたのはなんとなく覚えているんですが、僕自身は小学校、中学校、高校とサッカーひと筋でしたから、畑仕事の手伝いをした記憶もあまりないんです。
当時は将来自分がこんなに農作業にハマるなんて、夢にも思っていませんでした」

プロチームの下部組織に所属し、真剣にサッカーに取り組んでいた大野少年が転機を迎えたのは、大学のサッカー部を引退し、会社員の道を選んで数年が経ったころのことでした。
20代前半、人生はまだまだこれからという時期に、「もう一度自分自身のアクセルを踏み込みたい!」と思った大野さんは、会社を辞めて海外に出ることを決めます。
手始めは、ヨーロッパへの語学留学。一旦帰国したのちに、オーストラリアに旅立ちます。

「ヨーロッパから帰国したあと、働いてみたい、と思える会社が見つかったんです。自然の豊かなエリアに建てたキャビンを定額で貸し出す、いわば『別荘のサブスクリプションサービス』を手掛ける会社で、掲げている『Live with nature. 自然と共に生きる』というコンセプトにすごく共感したんです。
その時点では縁がなくて入社できなかったのですが、代表の方がオーストラリアの自然の中で味わった経験を語っているのを見て、自分も同じ景色を見てみたいと思ったんです」
自然と共に生きることの意味、その醍醐味を体感するために、大野さんは再び海を渡りました。

勢いに任せて渡豪した大野さんは、それから半年間、ラズベリーファームの敷地内でテント暮らしを始めました。不安がなかったと言えば嘘になりますが、体を動かし、現地の人々と交流を続けるうちに、大野さんは、日本では味わったことのない感覚に魅了されていきます。
「ラズベリーファームで働いた後は、雪山に移動してスノーボードをしながらリフト横のホテルでハウスキーピング。そのあとは海辺に移ってサーフィンをしながら働いて。とにかく楽しくて仕方がなかったです。
オーストラリアって、一歩家を出たら愛情に満ちた世界が広がってるんです。気さくに話しかけてくれるおじさんがいたり、何か困ったことがあればみんなで助け合う精神が根付いていたりして」

帰国することになったのは、大野さんが心の底からコンセプトに共感した、別荘サブスクリプションの会社に就職することになったから。
「オーストラリアでは、お金では買えない貴重な体験をしてきたと思っています。服が破れれば自分で縫い直して、何かが壊れれば自分で直す。
仲間内でピザが食べたいってなったら、みんなでピザ窯を作ったり。日本に帰国してからもそんなふうに、自分たちで『暮らしを丁寧に営んでいく』っていうことがしたかったんです」
手探りの農作業が少しずつ、人と人とを結びつける

「僕自身には何の知識もなかったので、畑仕事は手探りのスタートでした。土の作り方も、野菜の育て方もわかりませんでしたから。
とにかく休耕地だった土地を借りて、草を刈って、木を抜いて、耕して…進んでいく中で必要な知識や技術が出てきて、それを身につけてクリアしていく、という感じでした」

WebやSNSで畑作りの情報を集める中で気になった人、大野さんの考えに共感してくれそうな人がいれば教えを乞うために出かけていく。それを繰り返し、大野さんは農作業を学んでいきます。
「加えて、身近な仲間にも恵まれていたんです。地元の友人に米農家がいたし、養豚所をやっている仲間や農業研修を受けたことのある人もいました。大工さんもいましたね。そんな人たちに声をかけて、手伝ってもらったり、教えてもらったりしながら、結果、一緒にやろうよって巻き込んで(笑)」

大野さんの理想に賛同する仲間が増え始め、互いの理想を語り合ううちに共通認識が生まれ、それが「K3+」というライフスタイルブランドの礎になりました。
「最初からブランドを立ち上げようと思ったわけではないんです。本当に少しずつ、理想的な日常を表現するには何が必要なのかを考えながら、友だちに声をかけ始めました。
そうやっているうちに、できることややりたいことがどんどん増えていって、今の形が見えてきたという感じです」
手塩にかけて育てた野菜で、誰かを幸せにしたい

「K3+」のコンセプトは、「Live the life」。“暮らしを生きる”という意味が込められています。大野さんと仲間たちが理想の生き方を実践していきながら、そこに感じる幸せを何らかの形で広く“おすそ分け”していくことを、主な活動の目的としています。

自分たちが丹精込めて作った野菜やお米を販売したり、農業体験のイベントを開催したり、マルシェを開いたりと、具体的な活動内容は徐々に広がりつつあります。
「ビジネスに主眼を置いているわけではなく、あくまで、ライフスタイルを提案するブランドですね。コスパを追求するよりも、それぞれの“思い”や“理想”を形にしたい。だから、効率は良くないけれど、畑仕事のほとんどが手作業です。面倒くさいことや、少し手間のかかることの中にこそ、小さな幸せみたいなものがあるのではないかと思っています」

たとえば、トマトを育てるための支柱は既製品ではなく、山から拾ってきた枝を流用していたり、野菜の名札も竹を割って作っていたり。
土づくりに欠かせない堆肥は、養豚所を営む友人の協力を得て豚糞を使っているそうです。「車で片道1時間かかるけど、彼の堆肥でないとダメなんです」と、大野さんは力説します。
「ただ買ってきたものを消費するのではなく、捨てるものにも命を吹き込みたい」という大野さんの言葉は、かつてオーストラリアで経験したシンプルで豊かな生活を再現しようという熱意に溢れています。

「現状、野菜のネット販売はスタートしています。近いうちに野菜の定期宅配、直売所も始めます。一緒に野菜を作ってくれる人、その野菜を買ってくれる人、みんなが幸せになればいいですね。
ゆくゆくは、暮らしをデザインするアイテムや、木材を使ったインテリアを作るようなこともあるかもしれませんね。」
「農」のあるライフスタイルをベースにしつつ、活動の幅を広げていくことが、「K3+」の現在のビジョンのようです。
地域の人々と繋がり、その仲間たちと楽しみながら生きていきたい。大野さんたち「K3+」の影響力は、思いを同じくする多くの人々に、ポジティブな影響を与えていくことでしょう。
ワークライフバランスも、自分の手でコントロールしたい

大野さんは、「K3+」のブランドディレクターであると同時に、会社員としての顔も持っています。
前述した会社の一員としての日常です。理想のライフスタイルを提案する活動と“本業”とのバランスをとることに挑戦するのも、やりがいのひとつです。
「会社の方と相談させてもらって、最適な働き方を模索しています。今のところフルリモートという形で、だいぶわがままを言わせてもらっているなと思っています。
忙しい時は、畑仕事をしながら片手でスマホを操作して…なんてこともあります。今後そのバランスは変わっていくかもしれませんが…」
あくまで理想を追い求めつつ、仕事上の責任も果たしていこうとする大野さんですが、その口調には、信念に裏付けられた充実感が漂います。

「生きていくうえでは、もちろん“生業”と言われるものが必要だとは思っています。とはいえ、とにかくお金を稼ぎたい!という感情はないんです。
野菜の生産量も、無理して増やしていくつもりはないので。
それよりも、ゆったりとした時間を楽しみながら、好きな人と、好きなことをしていたいんですよね。その幸福感が、見ず知らずの人とも共有できたらいいな、と思います」

現在、「K3+」のメンバーは20人ほど。ブランドの規模をやみくもに大きくしていくことは考えていない大野さんですが、共に楽しい時間を過ごしてくれる人については「いつでもウェルカムです!」と笑います。
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