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農作業は最高の教材!自然と共存し、子どもたちの未来を作る方法とは

自然に囲まれた原っぱで、子どもたちが歓声をあげながら走り回る。そんな古き良き光景を見つけました。自然との共生を通して、子どもたちの感受性を養う学校があります。地域に根差しつつ、自然豊かな環境で「オルタナティブスクール」を運営するミッシェルさんに、子どもたちの未来を豊かにする「農」の使い方を聞きました。

撮影:編集部

日々自然と触れ合うことで、子どもたちの個性が光り輝く

「ここは、僕たちの学校であり、オフィスであり、暮らしの拠点でもあるんです」

豊かな森をバックに、ぽっかりと開けた広々としたフィールドを見渡しながら語るのは、「ヨーロピアンスクールつくば」の代表を務めるミッシェルさん。

畑があり、焚き火があり、お手製のツリーハウスまで設けられたこのフィールドは、日々子どもたちが訪れ、かけがえのない“経験”を手にする場として機能しています。

「農作業やアートづくりを通して、子どもたちの可能性を広げていきたい。それがこのスクールの目的です。自然に囲まれた豊かな環境の中で、やりたいことや興味のあることを経験してもらう。

自分たちが食べるお米や野菜がどうやって作られるのかを実体験したり、伝統的な農法を知ったりすると同時に、自然と共生する方法も学べます」

ヨーロピアンスクールつくばは、公的な教育の枠を超え、個性や自主性を重んじた独自のカリキュラムによって子どもたちの成長を助ける「オルタナティブスクール」のひとつ。

茨城県つくば市を拠点に、ミッシェルさんが立ち上げました。

現在は、野菜作りや米作りのほか、料理や木工、絵画などのアート制作、ヨガや外国語学習などを取り入れながら、子どもたちの感性に響く教育活動を展開しています。

「土と戯れて体を動かすなかで得られることはたくさんあります。加えて、農作業にはそれ以上にたくさんの学びが詰まっているんですよ。

ジャガイモを収穫したら、その中のいくつかを種イモにして、翌年またジャガイモを育てたり、美味しい果物のために果樹を剪定したり。

養蜂をしてハチミツを集めることにトライしたりもします。自給自足の仕方やサイクルを学ぶこともできますよね」

ミッシェルさんのスクールには、週に3回のペースで地域の子どもたちが集まってきます。不定期で開かれるイベントには、子どもたちの親も含めた多くの人が参加し、大いに盛り上がるといいます。

「田植えや稲刈りは、みんなで協力しながら楽しんでいます。農作業だけでなく、フィールドにある植物を使って染物をしたり、竹林から竹を切ってきて籠を作ったりといったワークショップもやっています。

粘土細工や絵画のクラスもあります。いろいろな形で、子どもたちが創造力を発揮してくれたら嬉しいです」

フィールドにあるベンチやトイレ、かまど、野菜を育てるビニールハウスなどは、子どもたちと力を合わせて作りました。

藁を編んで綱引き用の綱を作ったことも。そういった作業を体験することで、子どもたちは「自分で使うものは、自分で作る」といった精神を養っているようです。

自給自足しながら、地域社会を盛り上げていくのが理想


フランスと日本にバックグラウンドを持ち、日本で生まれ育ったミッシェルさんは、自然の豊かなエリアでごく普通の少年時代を過ごしました。「20歳くらいまでは、今みたいな生活をすることになるなんて思ってもいませんでした」と笑います。

転機が訪れたのは、18歳のころ。ライブペインティングのパフォーマーとして世界を旅していたミッシェルさんは、渡航先の農家を転々としながら、“「農」のある暮らし”を体感します。

そこで、自身の中で漠然としていた、「自然と共生しながら生きていきたい」という思いが、具体的なビジョンとして形作られていったようです。

「もともと自然が好きで、自然の中で作業をすることも好きでした。海外のエコビレッジのような場所で生活してみて、ああ、こういう暮らし方もあるのかと。そのワクワク感が、今の活動のきっかけになったと思っています」

生態系を守りながら自給自足をし、地域住民が助け合い、持続可能なコミュニティを築いていく。いわゆる“パーマカルチャー”の考え方に共感したミッシェルさんは、帰国後に少しずつ、自分の理念を具現化する挑戦を始めました。

海外の農村で体験したことを、次の世代に残したい。その考えが、原動力になったと言います。

自給自足を試みながら、自然と共存し、社会を運営していく。そんなパーマカルチャーの本質は、“日本の原風景”ともリンクします。

「自生しているものを活かし、工夫をして、生活を営んでいくっていうことは、僕らのおじいちゃん、おばあちゃんの世代では当たり前にやってきたことですよね。その良い部分を忘れないためにも、伝えていくことに意義があるだろうな、と思ったんです

教育の分野に興味があったので、『子どもたちに、何をどう伝えるか』という視点を大切にしました。海外を中心に広く知られているシュタイナー教育や、アートセラピーについて独学で学びつつ、自分にできることを考えました」

自身の専門分野であるアートを軸に、スクールを立ち上げる。それが、ミッシェルさんが導き出した答え。

アートスクールを開校し、土地を探し、フィールドワークができる環境も整えました。日本のエコビレッジを目指すべく、地域コミュニティとの連携も重視しました。

「この地域には、僕らの考えに共感してくださる方がたくさんいます。アドバイスをくれたり、一緒に作業してくれたり、とても助かっているし、嬉しいですね。子どもたちの親御さんも含めて、地域の方々と世代を超えて繋がっていけるのは理想ですから」

日々の労働は仕事ではなく、もはや”生き方”

ミシェルさんにとってスクールの運営は、「仕事」というよりは「生き方」や「日常」と言い表したほうがしっくりきます。

ブラジル出身である奥さんのサユリさんは、ヨガとポルトガル語の講師としてスクール運営をサポート。2人の息子は、常にフィールドを駆け巡り、同世代の子どもたちと交流しながら、時にミシェルさんの作業を手伝います。

「一時期、家族全員がフィールドに寝泊まりしていたこともあります(笑)。今は別のところに住んでいますが、それでも毎日フィールドにいますよ。畑仕事に、施設のメンテナンス、やることがいっぱいですから」

耕運機や大型の重機が常備されているわけではありません。毎日の作業はほとんどが手作業。「あえて大変な方法を選んで作業しているところもありますね」と語るミッシェルさんは「だけど、それが楽しいんです」と続けます。

実際、イベントやワークショップでは、子どもよりも大人のほうが夢中になって体を動かし、作業するシーンも見られるそうです。

ミッシェルさんとその家族が実践するライフスタイルは、生徒である子どもたちのみならず、周辺の大人たちにも何らかの刺激を与えているのです。

そんなミッシェルさんたちの暮らし方や活動内容は、一見、“非日常的”に見えるものです。ただ、一般的な“日常”から遠く離れたものではないとも言えそうです。

その境界線がなくなり、バランスのとれた形で融合していくことこそが、ミッシェルさんが思い描く「次世代に伝えたい暮らし方」なのかもしれません。

ないものは作り、壊れたら直す。大切なのは”発想力”

ミッシェルさんたちは、年間を通して農作業を体験することで、子どもたちに自給自足の大切さを理解してもらうことを目指しています。

米や野菜を自分たちで作って食べることができれば、“自給自足”が成り立ちます。ただ、現実はそれほど単純ではありません。

サステナブルで理想的な自給自足を目指すうえでは、細やかな工夫や挑戦が不可欠。ミッシェルさんは、身の回りに存在する自然の恵みを見渡し、教材としての有効活用法に思いを巡らせています。

「フィールドの近くに広大な竹林があります。そこでタケノコ堀りをさせてもらったりもするのですが、竹林の魅力はそれだけじゃないんです。

まず、竹林の土は栄養豊富な畑の土として応用できます。伐採した竹を使って、かごや竹ぼうきを作って、フィールドで使ったりもしますね。

そういった試みを通して、竹林を管理する方法を模索していくんです。作業のひとつひとつが、自給自足のサイクルに組み込まれていく、ということです」

フィールドで出た生ごみや落ち葉はコンポストで堆肥にし、畑にまいたりトイレに敷いたりします。養蜂ははちみつを集めるだけでなく、蜜蝋石鹸やキャンドル作りにも役立てる。

廃材を使って小屋やツリーハウスを建てたのも、手持ちの素材の有効活用と言っていいでしょう。

「畑は大量生産を目指しているわけではないので、農薬を使うこともありません。連作障害もあまり気にしていないですね。自分たちで作った土や肥料で野菜を育てて、この場で料理して、食べ残しや野菜の皮はコンポストへ。そのサイクルは順調に回っています」

日常を豊かで充実したものにするために、考えて、発想して、組み合わせるという一連の作業は、農作業をクリエイティブなものに昇華させます。

ミッシェルさんのスクールでは、アート作りやダンスなども教えていますが、クリエイティビティを発揮して日常生活をデザインするという手法も、ある意味アートのジャンルのひとつと言えそうです。

「自然の中で生活していると、最適な発想が浮かぶようになります。ないものは作ればいいし、壊れたら直せばいい。子どもたちには、そういう発想を楽しんでほしいなと思います」

子どもたちの成長を助けるフィールドでありたい

ヨーロピアンスクールつくばのフィールドには、土と触れ合うことに楽しみを見出し、互いに与え合い、協力し合うという風土があります。集まってくる子どもたちの中には、不登校になった児童の姿も。

「公的な教育機関の枠に収まり切れない子ども、うまく順応できない子どもは少なからずいます。そういった子どもたちも、公教育とはまた違った手段で成長することができます。その助けができればいいなと」

ミッシェルさんのスクールは、子どもたちの感性を伸ばす“学校”であると同時に、“心の拠り所”としての役割も担っているようです。

「いずれは、このスクールの理念や手法、エコビレッジ的な機能を、全国に広げていきたいと思っています」

それが、現時点でのミッシェルさんの目標。もちろん、やらなくてはならいこと、越えなくてはならないことは山のようにあります。

ミッシェルさんは協力者とともに、それをひとつずつクリアしていきながら、子どもたちの幸せな未来を描いていこうとしています。

「環境は整いつつあります。長く運営してくために、スクール外に向けたイベントやワークショップを通じて資金を集めていこうとも思っています。

そしてこの場所で、少しでも多くの子どもたちに、自然と共生していくことの大切さと楽しさを知ってもらいたい。それが今の僕の願いです」


「農」のある日常が、人生に及ぼす効果についてもっと知りたいなら、この記事もチェック!

溝口 敏正

フリーランスライター。趣味はハーブの栽培。

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