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植物を愛でるように豆と触れ合う。「農」を知る焙煎師の絶品コーヒー

「好きなものに囲まれて、好きなことをする」。そんなポリシーを大切にしながら、豆と向き合う焙煎師がいます。浦野枝美さんが自らの感性を注ぎ込み、丁寧に火を入れて焙煎するコーヒーは、多方面から注目を浴びる存在。そんな特別なコーヒー豆を生み出す焙煎所は、山と川に囲まれた自然豊かなエリアにありました。

唯一無二のコーヒー豆を生む、カフェのような焙煎所

群馬県高崎市の閑静な住宅街。かつてクリニックだった物件を活用したという広々とした空間には、香ばしいコーヒーの香りが漂います。

ドリッパーやポットなどのコーヒーグッズがずらりと並び、その隙間を埋めるように、いくつもの植物の鉢植えが置かれた室内。片隅には、こだわりのDJブースまで。

一見するとおしゃれなカフェのようにも見えるこの場所は、焙煎師・浦野枝美さんが営む「浦野珈琲」の焙煎所です。

ここでは、豆の焙煎に加えて、梱包作業やカッピングによる味のチェック、さらには新たな風味を探るための研究も日々行われています。

浦野さんにとっては“商売道具”の一部であるコーヒーグッズですが、整然と美しくレイアウトされていることによって、さながらアート作品のようにも見えます。

「ポットの注ぎ口の形状でお湯の出方が違うんですが、それによってコーヒーの味も変わったりするんです。そういうことを研究したくていろいろな種類のものを集めていたんですけど、途中でコレクター魂に火がついてしまって(笑)。いつのまにかこんなに集まってしまいました」

仕事の合間には、好きな音楽をかけ、時に植物たちの面倒を見ながら、息抜きをする。それが通常のスタイル。

コーヒー豆の色や香りを見極めながらの焙煎作業には、研ぎ澄まされた感覚と集中力が必要なだけに、休憩時間は徹底してリラックスすることも重要なのかもしれません。

「植物を手入れすることと、コーヒー豆を扱うことには共通点が多いんです。私にとっては豆も “生き物”のような存在で、気温や湿度を気にかけながら、機嫌をうかがうように丁寧に向き合います。思いどおりにいかないこともありますが、その分やりがいを感じられる作業なんですよ」

豆との触れ合いは、“土いじり”に似ている!?

18歳で上京するまで、浦野さんは九州地方の自然豊かな地域で育ちました。実家は農家。米を作り、野菜を作り、自給自足に近い生活をしていたといいます。

幼少期から田植えや畑仕事を手伝ってきた浦野さんにとって、植物を愛でたり土いじりをしたりすることは、趣味である以前に、当たり前のように生活に根付いているものでした。

「東京に出てから、引っ越しをするたびに観葉植物が増えるんですよね。高崎に来てからは3年くらい経つんですけど、自然がより身近になったイメージです。窓から山が見えるし、この焙煎所のすぐ近くに川があって、最高の環境です」

普段から愛犬と河川敷を散歩し、週末にはご主人と群馬の山々を巡りながら自然の息吹を満喫しているという浦野さんは、この土地での日常を心から楽しんでいるようです。

日々コーヒー豆と向き合う焙煎師の仕事にも「やりがいを感じています」と笑顔を見せます。

ただ、そもそも浦野さんが生まれ故郷の九州を離れたのは、焙煎師になるためではありませんでした。

「上京した目的は、ダンサーになりたかったからなんです。東京に出てからしばらくして、ありがたいことにダンスでお金をもらえるようになって、最初は嬉しかったんですけど……しばらくすると『何か違う』って思いはじめました。私にとってダンスは仕事ではなくて、純粋に楽しむものなんだって気付いたんです」

方針転換を決意して、もともと好きだったというカフェでの仕事に挑戦。友人と会社を立ち上げ、自分のカフェを運営することになり、それが、コーヒーについて深く考えるきっかけになりました。

「凝り性なんですよね(笑)。カフェが好きで、コーヒーが好きで、美味しい一杯を追求していくうちに、焙煎にも興味が湧いてきて。気づけば、すっかりのめり込んでいました」

好きが高じて個人的に学び始めた焙煎は、いつの間にか仕事となり、東京や神奈川、地元である九州のつながりのある飲食店に焙煎豆を卸したり、名だたるブランドとのコラボ商品を手がけたりするまでになっていきました。最近では移り住んだ高崎にも、その輪が広がりつつあるそうです。

ダンスを仕事にすることには抵抗感がありましたが、焙煎は浦野さんにとって、”大切な仕事”になったようです。

「コーヒー豆には、生産者の思いが込められているので、それを最終的にきちんと価値として伝えたいと思っているんです。私が焙煎する意義はそこにある、という感覚。正直、コーヒーってそんなに稼げるものじゃないので(笑)、本当に“やりがい”が中心なんです」

作業の中で一番楽しさを感じるのは「豆を触っている時」。それは「土いじりに似ているからかもしれませんね」とも話します。

丁寧に豆に触れ、その可能性を引き出す作業は、土と触れ合いながら成長してきた浦野さんの中にある「農」の遺伝子を刺激するのかもしれません。

焙煎に正解なし。その難しさが”やりがい”を加速させる

豆の選別から焙煎作業、そして袋詰めまで。ほぼすべての作業を、浦野さんは自分ひとりでこなします。ドリップパックを作る時も、ひとつひとつ手作業で。

「先日も、あるアパレルブランドさんからノベルティ用にドリップパックを頼まれて、200個くらいを手詰めしました。好きなことだからこそ、責任をもって関わりたいんですよね。もっとPRしたり、ECで売ったりすればいいのにって言われるんですけど、そうすると手が回らなくなっちゃって……」

丹精込めて焙煎するコーヒーは、知る人ぞ知る存在としてファンを増やし続けています。ただ、いたずらに規模を大きくするつもりはないと言います。

自身の豆に対する感覚を大切にしながら、常に豆の状態を把握できる範囲の量だけを扱う。その姿勢には、職人としての真摯な思いが息づいています。

「焙煎の状態は数値で管理できます。でも、同じ数値が出たとしても、味わいが違うことがあるんです。それは、コーヒーを淹れて飲む環境かもしれないし、私自身の感覚の揺らぎによるのかもしれません。“こうすればこうなる”という正解がないところが、面白いなと思っています」

長年にわたって浦野さんは、自分なりの焙煎の方法を模索してきました。新しい焙煎機を導入した際には、調整がうまくいかず、何十キロもの豆を無駄にしてしまったことも。

それでも、納得する味を求め、試行錯誤は止まりません。いくつものクライアントを抱えるようになった今でも、あくなき探究は続いています。

「植物を育てるのと一緒なんです。日当たりが良くて、温度も適切で、水も十分。環境は完璧なのに、『この鉢だけ元気がないな』ってこと、ありますよね。コーヒー豆も同じで、その時々で微調整が必要なんです。そこが難しいところでもあり、一番楽しいところでもあるんですよ」

浦野さんは今日も、大量のコーヒー豆の状態に気を配りながら焙煎作業を進めます。もうひとつのルーティーンである植物の世話もしっかりと。このリズムとバランスが、充実した日常を支えています。

「毎日植物に水をあげながら、生命の神秘みたいなものを感じています。ちょっと芽吹いているのを見つけただけで、気持ちがアガるんです。嫌なことも、どうでもよくなっちゃう(笑)」

「育てている植物と一緒に、私も成長したいんです」と語る浦野さん。独自の感性でコーヒー豆に命を吹き込む気鋭の焙煎師は、今まさに、右肩上がりの成長曲線を描いています。


植物とともに紡ぐライフスタイルに関心があるなら、こちらの記事もチェック!

溝口 敏正

フリーランスライター。趣味はハーブの栽培。

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