美味しい人気店がこぞって「農」に取り組む理由とは?東京・味坊集団に聞く”美食”へのこだわり
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最近は自社菜園を含め、農業に取り組む飲食店が増えています。その理由は、メニューの原価率を下げるためかと思いきや、必ずしもそうとは言い切れないようです。今回、編集部が訪れたのは茨城・つくばみらい市にある農園。そこで汗をびっしょりかきながら農作業をしていたのは、東京都内で“ガチ中華”の人気店を11店舗運営する「味坊集団」代表の梁宝璋(りょう・ほうしょう)さんでした。
取材・撮影・文/TSUCHILL編集部
仕入れるほうが安い。それでも推し進めたい自給自足への挑戦
「うちの野菜は土の力でしっかり育っているから、味が濃くておいしいよ。お客さんも喜んで食べてくれてるね」
汗を拭いながらそう語るのは、東京都千代田区の「神田味坊」を皮切りに、ガチ中華11店舗を経営する梁さん。
故郷である中国東北地方の羊肉料理や発酵中華をリーズナブルな価格で提供し、予約必須の人気店を次々にオープンさせてきました。
梁さんが農業をはじめたのは、2018年頃。日本ではあまり流通していない中国野菜を育てることを目的に、100坪の畑からスタートし、現在は茨城県つくばみらい市と埼玉県八潮市に、合計2万平方メートルほどの自社農園を所有しています。
取材で訪れた初夏の畑では、じゃがいもや長ねぎ、パクチー、高菜などの野菜が元気に育っていました。
「僕は農家ではなく飲食店の経営者。農薬も化学肥料も使っていなかった頃の中華料理を提供したいんです」と語る梁さん。
無農薬栽培へのこだわりゆえか、作物の周りに絶え間なく白い蝶が舞い、花に蜂が寄って来ていたのも印象的でした。
畑にいると本来の自分に戻れる。だから僕は農業を続ける
飲食店で提供する野菜を自分たちで育てれば、原価率が下がるのでは?と思う人もいるかもしれません。
梁さんにその辺の本音を聞くと、「そんなことはない!むしろ経費がかかってる」と即答。
詳しく聞いてみると、肥料は麦芽粕をもらっているから無料とはいえ、農地の賃貸料は年間約30万円、人件費は月100万円かかるそう。コスト増というリスクを抱えながら、なぜ農業を続けるのでしょうか。
「自分たちが一生懸命に育てた野菜を、お客さんがおいしそうに食べてくれる。それはとても幸せなこと。うち以外にも、最近は自分たちで野菜を育てる飲食店が増えていますよね」
「あとね、土を触っているうちに、だんだん楽しくなってくるんですよ。上手くいかないことも全部含めてね」
週末は必ず農園で畑仕事をしている梁さんは、「東京で仕事をしていると頭が疲れちゃうけど、畑にいると頭がからっぽになってストレスがなくなる。体は疲れるけど、ここにいると本来の自分に戻れるんです」と笑います。
食べることを含めた日常生活そのものを、自然のなかで存分に楽しんでいた幼少期の記憶。その頃の豊かさを、梁さんは土を触りながら取り戻しているそうです。
野菜の保存方法を知ることで、発酵と乾燥で旨味が爆増します
梁さんは最後に、家庭菜園に興味を持つ読者のみなさんに、こんなアドバイスをくれました。
「収穫した野菜が大量だと、全部は食べられないでしょ。だから、保存方法を知っておくといいと思います。
たとえば、発酵させたり乾燥させたりすれば、フレッシュな状態では味わえない旨味が出るんです。保存すれば夏に冬の野菜を食べることもできるから、楽しみが増えるでしょ」
農林水産省によると、規格外品などで出荷できずに破棄される野菜は生産量の30%にも及ぶと言われています。発酵や乾燥保存の知識を学ぶことは、フードロスの問題解決にも繋がります。
味坊集団は、自社農園で収穫した野菜を加工し、お店のメニューとして提供するだけにとどまらず、オンラインでも販売しています。
味坊農園の野菜のおいしさと発酵野菜の旨味が気になる人は、ぜひ利用してみてください。
【神田味坊】
大衆本格中華とナチュラルワインを提供する味坊一号店。中国東北料理をベースにした羊肉料理と発酵中華で、一度行ったら虜になる飲食店として人気を博しています。
住所:東京都千代田区鍛冶町2-11-20
URL:https://www.ajibo.tokyo/shop/shentian.php
TEL:03-5296-3386
【月~土】ランチ 11:00~14:30/ディナー 17:00~23:00(ラストオーダー22:30)
【日・祝】13:00~22:00(ラストオーダー21:30)