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美男美女が畑へ向かう。人気モデルたちを虜にした“土に触れる日常”

「農」のある暮らしを実践する人々にフォーカスする『農動的スタイル』は、趣味として、あるいは仕事や日常の一部として土いじりを楽しむファッションモデルのみなさんのライフスタイルをご紹介。

農作業へのこだわり、作業着へのこだわり、そして、「農」から始まったモノ・コト・トキ・イミを、自由に語っていただきます。

記念すべきシリーズ第一回にご登場いただくのは、Shogoさん。誰もが憧れる人気モデルが地方に畑を借り、土まみれの時間を満喫することになった経緯をうかがいました。

Photo:木村武司/Text:溝口敏正

上手くいかなかった悔しさが、「農」への思いに火をつけた

「小さいころ、小さいころ、祖母の親戚が経営していたブドウ農園や、家庭菜園の手伝いに行ったことがあります。かつて経験た農作業はそれくらい。まったく知識のないところから『農』の世界に入っちゃいました(笑)」(Shogoさん)

人気ファッションモデルとして数々の媒体で活躍しつつ、モデル事務所の経営者としてマネジメントにも時間を割く。

そんな多忙な日々を送るShogoさんが「農」の世界に足を踏み入れたのは、ビジネスの延長上にある、とある出来事がきっかけでした。

「自分がモデル事務所を運営していくことになって、モデルのセカンドキャリアを考えるようになったんです。そんな中で、『農業』という選択もひとつの形だなと思って。

ちょうど事務所に、将来は実家の青果店を継ぐ予定のモデルがいたので声を掛けました。セカンドキャリアとして八百屋さんになるなら、生産者の気持ちも分かった方がいいんじゃないかなという考えもありましたから。

結果として、彼と一緒に畑を借りて農作業を始めたというのが最初のアクションになりました」

横浜に畑を借り、手探りで農作業のイロハを学びつつ、野菜を作りはじめたShogoさん。一緒に畑仕事をしていた仲間は1年後にモデルを引退し、実家に帰ることになりましたが、Shogoさんは一層「農」の世界にのめり込んでいったと言います。

「一年間、野菜を育てただけですぐに農業の面白さに気付いたので、ひとりになってもやめようとは思わなかったですね。

と、いうのも、最初の夏に何の知識もないまま、いろいろ野菜を育ててみたんですが、全然うまくいかなかったんです。もう、それが悔しくて(笑)。

だから、イチから勉強しようと思い立って、週末に通える農業スクールに入ることにしたんです」

「好きなものを身に着けて、テンションを上げて農作業する。そうすれば、絶対楽しくなりますよ」(Shogoさん)/Tシャツ、グローブ(KEIMEN)

反骨心と探求心に火がつき、忙しさの合間を縫って学校で学ぶようになったShogoさんは、農業が予想以上に緻密で、科学的なものだということを知ります。

「その奥深さの虜になりましたね。農業について真剣に学んだのはほぼ初めてのことでしたが、『作物ってこうやってできてるんだ』といった基本から始まって……。

そこで学んだことが、さらに野菜を作りにのめり込んでいくきっかけになりました」

山梨県の畑で本格的な農作業を開始。すべての動きが”刺激”に

Shogoさんの農業に対する情熱は、徐々に勢いを増していきます。山梨県の道志村に1.5反の土地を借り、そこで野菜を育てる活動をスタート。

季節の野菜を中心に栽培し、試行錯誤を繰り返しながら、「農」の知識と技術を磨いています。

現在も週に一度のペースで畑に通い、忙しい時には朝から陽が落ちるまで一心不乱に作業をこなすこともあります。Shogoさんは「スポーツをしに行くような感じですよ」と笑いますが、その表情からはこの上ない充実感を感じ取れます。

「ナス、ピーマン、オクラ、サツマイモ…いろいろ作っていますね。できたものは自家消費がほとんどですが、一部は地元の組合を介して飲食店に卸したりもしています。

あとは、知り合いのスタイリストさんがやっている子ども食堂にも送っています。野菜を作ること自体が好きなので、それだけでも十分楽しいんですけど、農作業を通じて周囲の人たちと繋がっていくこともできる。それは素敵なことだと思うんです」

時には、事務所に所属する若い仲間と一緒に農作業に励むことも。東京から道志村までの移動時間も含め、良いコミュニケーションの場にもなっているといいます。

「都会と田舎を行き来していると、なにかホッとするような、癒やされる瞬間があるんですよね。そういう感覚は、モデル業にも良い影響を与えてくれると思っています」(Shogoさん)

「モデルの仕事って、毎回違う人と会って緊張するし、求められることもたくさんあって、ある意味、心をすり減らしながらやっている側面もあるんですよね。

畑には、ウチの事務所に所属するモデルたちを誘っていくことが多いんです。みんないろんな思いを抱えていると思いますけど、農作業の合間とか、畑の行き帰りの車中とか、山梨の自然豊かな環境でリラックスできれば、胸の内を話せるんじゃないかな、と思っていて。

そういう意味でも貴重な時間ですよね」

あらゆる角度で「農」に触れることのできる”入り口”を作る

モデル業と農業。一見ミスマッチにも見える組み合わせではあります。ただ、Shogoさんは土と向き合う日々から刺激を受け、さらにそこから新たな発想を得て、自身の行動範囲を広げている印象があります。

「農作業の時に着る服を扱う『KEIMEN』というブランドを立ち上げました。

もともとは、農作業をしながら『必要十分なスペックを備えた作業服やギアがあったらいいな』という思いがきっかけなんですが、それに加えて、テンションの上がるものを身に着けて、より楽しく作業したいという考えもあって。

若い世代が農業に興味を持ったり、畑で土いじりをしてみたいなと思ってくれる入り口になれたら嬉しいですね」

「作業用の道具にもこだわりたいですね。以前、鍬のメーカーとコラボ商品を作ったこともありますよ」(Shogoさん)/オーバーオール(KEIMEN)、長靴(エーグル)

農業に興味を持つための“入口”になりたい。Shogoさんが抱くその思いは、単に「おしゃれな作業服を作る」というだけにとどまりません。

「KEIMENではシーズンごとに冊子を発行しているんです。内容はカタログ……に見せかけて(笑)、実際は農業というフィルターを介して、日本の歴史を深堀りしたコンテンツを盛り込んでいます。

養老孟子さんや松岡正剛さんといった知識人にお話を伺って記事を作ったりもしています。

農業と向き合う、その“角度”が面白いんですよね。農業を知るのにはいろんな視点や見方があっていいと思いますから」

Shogoさんは、「僕は農業そのものに、ツライとかダサイとか、いわゆる“良くないイメージ”を感じることがまったくないんです。そんな自分の視点で農業を紹介したいし、知ってもらいたい」と語ります。

農業が持つ本来の役割とあり方をきちんと理解しつつ、それを存分に楽しむ術を模索し続ける。Shogoさんのスタンスは、土と戯れる経験の少ない現代人に、今までにない選択肢を提供してくれそうです。

「カッコイイし、面白いし、魅力がある、ということを知ってもらいたいです。それから、農業をきっかけに、いろいろな分野にアクセスできるようになるということも。

たとえば、食の分野、お酒の分野にも興味が向いていきますよね。先日、冊子の取材で九州大学の先生にお話を聞きに行ったんですが、雷と作物の生育の関係について知ることができたんです。

自然の分野にもリンクできたということです。そう聞くと、どんどん視野が広がっていく気がしませんか?」

自分が育てた野菜を毎日食べる、豊かな日常がそこにある

もはやShogoさんにとって、土まみれになって作物を育てることはライフスタイルの一部。

まるで学生時代の部活の遠征のような感覚で地方の畑へと通い、自身の手で育てた野菜を食べることは、やりがいや充実感以上のものをもたらしてくれます。

「息子が野菜を好きになって、たくさん食べてくれるようになったのは大きいですね。

たまに農作業を手伝ってくれるんですが、小さい頃に土に触れて過ごしたかどうかは、大人になってからの生き方に何かしら好影響がありそうですし。

僕自身も、今まで以上に野菜が好きになったし、それは健康面でも大きなメリットがあります。もうやめる理由が見当たりませんよ(笑)」

「道志村の農家の方とはよく話しますよ。その土地の気候風土によってやることが決まりますから。いつ霜が降りるのか、獣害をどうやって防いでいるのか、とか。毎回勉強になっています」(Shogoさん)

農作業で大いに体を酷使することがあっても、「それもいい運動。トレーニングになります」と笑い飛ばすShogoさんは、これからの活動についても確かな目標を持ち、しっかりとそれを見据えています。

「まずは、毎年自分が納得する形で畑を管理していくことが大事だと思っています。

それと、今以上に知識を深めていくこともですね。今もあちこちの農家さんに取材に行ったりするんですが、もっとたくさん話を聞きたい。

それぞれの手法や世界観を知ることが、何より勉強になりますから。そして、自分が学んだことを発信して、ひとりでも多くの“仲間”を増やせたらいいですね」

<プロフィール>
Shogo/Instagram:https://www.instagram.com/shogo_velbed/
愛知県出身。ファッション誌、広告などを舞台にモデルとして活動しつつ、2018年、自らモデル事務所「VELBED.」を設立。山梨県の道志村に農園を持ち、仲間とともに農作業に勤しむ傍ら、2021年には農作業着を中心に扱うブランド「KEIMEN」を立ち上げ、ディレクターに就任。農業にまつわるさまざまな情報を発信しながら、幅広い世代に向けて、「農」を楽しむきっかけ作りに励んでいる。


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溝口敏正

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