【TSUCHILL農園・夏の収穫レポート】野菜をシェアして気づいた、やさしい循環のはじまり
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今年のTSUCHILL農園も、夏野菜がたっぷり実りました。とうもろこし、ナス、枝豆、トマト……青々と茂る畝の間から、いっせいに顔をのぞかせた野菜たち。収穫の喜びに包まれるなか、私たちは、ある「課題」にも直面していました。
それは、昨年も経験した「たくさん獲れすぎて、食べきれない」問題。
今回、TSUCHILL編集部は収穫野菜を「シェア」するという選択肢を選びました。
野菜をわけ合った先に広がっていた、あたたかいつながりの物語をお届けします。
Photo:吉田達史、景丘の家/Text:馬渕信彦
TSUCHILL農園で夏野菜を収穫。豊作ならではの悩みも?

2025年7月末、強い日差しが注ぐ夏の朝。
東京都世田谷区にある「TSUCHILL農園」で、今年も収穫の夏を迎えました。この日に収穫したのは、とうもろこし、長ナス、白ナス、ししとう、ピーマン、枝豆、トマト、じゃがいも。例年通りの見事な実りに、私たち編集部も大喜び。





その一方で、「大量に収穫した野菜をどうやって消費しよう?」という現実的な課題を感じていました。
畑をやっていて実感するのは、夏野菜の収穫適期の短さ。どの野菜もいっせいに育ち、ほんの数日で食べ頃を迎えてしまいます。特に家庭菜園では、食べきれないほどの量が一気に採れてしまうことも。
収穫のタイミングが集中することで、「冷蔵庫に入りきらない」「調理が追いつかない」といった、いわゆる“豊作の悩み”に直面していました。
TSUCHILL農園の夏野菜も、編集部員でわけても消費しきれない収穫量になることは、なんとなく想像していました。



これまでもTSUCHILLでは、収穫野菜の保存方法や活用レシピを記事でご紹介してきましたが、それだけではどうにもならないときもあります。
そんなときに出会ったのが、ある料理家の活動でした。
「届ける先」があると、人はやさしくなれる

「子どもたちと流しそうめんのワークショップをやるんだけど、もしよかったら畑のお野菜を少しわけてもらえないかな?」
そう声をかけてくれたのは、料理家の塩山舞さん。
ニューヨーク在住の彼女ですが、夏に一時帰国している間は東京を拠点に、子どもたちの笑顔を育む食の活動を始めています。
母親でもある舞さんが、料理家としてそのような活動を始めるきっかけとなったのが、今回ワークショップを開催する「景丘の家」の存在だと言います。


恵比寿にある「景丘の家」は、子どもから大人まで、幅広い世代に向けた複合型施設。子ども食堂、フードパントリー、アートスクールなどを通じて、地域と子ども、そして未来をやさしくつなぐ場です。
「食」と「学び」の交差点のような空間で、今日もたくさんの小さな笑顔が育まれています。

TSUCHILL農園で収穫した夏野菜は、舞さんがワークショップを行う「景丘の家」にお届けすることにしました。
届け先が明確になると、野菜をわかち合う理由も具体的になり、いつもの収穫とは少し違った気持ちになれたことも、私たちTSUCHILL編集部にとっての“収穫”でした。
“届けたいのに、届けられない”という現実

「長崎の漁師の方と話していたときも、“子どもたちのために魚を提供したいけど、どうしたらいいかわからない”とおっしゃっていて……」
舞さんが教えてくれたのは、農家や漁師、そして家庭菜園者たちが抱える“共通のジレンマ”。
届けたい気持ちはあっても、届ける方法がわからない。
そんな声を、舞さんは「景丘の家」という場で受け止めていました。
大量に収穫した野菜の消費方法を悩んでいたTSUCHILL編集部も、舞さんを通じて“気持ちを届ける”活動に参加することで、収穫のその先の喜びを感じることができました。

少し話は逸れますが、「景丘の家」のスタッフの方にお話を伺うと、近年は「子ども食堂」の活動が広く知られるようになったことによって企業からの協賛が増えている反面、経済的に困窮している家庭に食品を提供する「フードパントリー」の活動には、なかなか物資が集まらない現状があるそう。


今回TSUCHILL農園の野菜は子どもたちのワークショップに届けましたが、私たちがわかち合う先を限定する理由なんてありません。
また次の収穫時に余剰野菜があった際は、求めている声に耳を澄ませて、野菜をシェアする喜びを共有していきたいと思っています。
流しそうめんのワークショップで、笑顔があふれた日

そして、いよいよ迎えたワークショップ当日。
景丘の家には、前日に千葉の山から運び込まれた竹が。子どもたちは割って削って組み立てた本格的な流しそうめん台を前に、目を輝かせていました。


TSUCHILL農園で採れたとうもろこしで炊いた、長崎の漁師さんから届いた鯛をはじめ、子どもたちが包丁を持って調理した野菜たちがおいしい料理になって盛り付けられていきます。

冷たいそうめんが竹を流れるたびに歓声があがります。そうめんがすくえなくても、それすら楽しい夏の風物詩。
身体にも心にもやさしい時間が、景丘の家に流れていました。
子どもたちにとって忘れられない夏の思い出に、野菜を届けるというカタチで参加できたことが、とても嬉しかったです。
「わけ合う」ことは、“やさしさ”の循環

収穫の先に、“わけ合う”という選択肢を。
今回の体験を通じて、私たちTSUCHILL編集部も多くのことを学びました。
育てた野菜を自分たちで消費するだけではなく、「わけ合う」という選択肢もあるということ。



届けたいけど、どうしたらいいかわからないと思っている人たちが、心地よい解決の一歩を踏み出せるきっかけになるように、「こんなアクションもあるんだよ」と伝えていくことも、TSUCHILLの役割のひとつだと感じています。

畑からはじまる、やさしい循環の物語。
収穫の先には、思っていた以上にあたたかな世界が広がっていました。