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摘んだ香りを未来へ。料理家・桑折敦子さんのキッチンガーデン「保存の工夫と知恵」

育てたハーブや野菜を、最後の一枚までおいしく使いきる。それは、キッチンガーデンの“締めくくり”であり、“次の始まり”でもあります。料理家・桑折敦子さんに、日々の台所で続けている保存と加工の工夫を伺いました。香りや旨みを閉じ込める瓶の中には、季節の記憶と手仕事のぬくもりそして暮らしを続ける人のやさしいリズムが詰まっています。

【教えてくれる人】

桑折敦子(こおり・あつこ)さん

スープ専門店「Soup Stock Tokyo」のほとんどのメニュー開発を行ってきた、通称“スープの女神”。 フリー転身後も業務委託として新商品の開発に携わるほか、料理家/フードプランナーとして企業の商品開発やメニュー監修、料理イベントやメディア出演などで活躍中。

季節の香りや素材の魅力を閉じ込める、桑折家のストック術

キッチンガーデンの楽しみは、育てて食べるだけでは終わりません。「摘みたての香りや素材の魅力をどう保存するか」もまた、暮らしをつくる大切な手仕事。

旬の野菜やハーブを少しずつ加工しながら、冷蔵庫や瓶の中に季節をストックしていく桑折敦子さん。料理のひらめきも、その香りの記憶から生まれることが多いのだそうです。まずは、桑折家の冷蔵庫に常備されている“キッチンガーデンで作るストックフード”からです。

Q1. 桑折さんが絶対に冷蔵庫に常備している“キッチンガーデン三兄弟”は?

「ひとつは、大葉の醤油漬け。大葉を醤油、少量の砂糖とおろしにんにく、ごま油に漬けておきます。ごはんを巻くだけでごちそうに。

ふたつめは、バジルペースト。バジルとにんにく、ミックスナッツ、塩、オリーブオイルをミキサーでペーストにして冷凍保存。

最後はハーブバター。余ったハーブ類を刻んで、にんにくとともにバターと練り合わせて冷凍しておきます。魚のソテーにもパンにも万能ですよ」。

大葉は摘心をこまめに行うことで、やわらかい葉を長く収穫できます。バジルは寒さに弱いので、秋口の終わりにはペーストにして冷凍を。パセリやディルなどは根元近くからカットし、使い切れない分をバターに練り込むと、風味を逃さず保存できます。

自分の育てた香りが、毎日の食卓に“帰ってくる”感覚を楽しんで。

Q2. キッチンガーデンで収穫したハーブを、飽きずに使い切る現実的プランは?

「セージがたくさん採れた週末は、まずはフリットで。白ワインのおつまみに最高です。翌日は刻んだセージとバターで“セージバター”を作ってパンに添えて、月曜はそのセージバターで魚のムニエルを。

残りは乾燥させておいて、豚ひき肉と混ぜて手づくりソーセージに。週末には、そのソーセージをキャベツやレンズ豆と煮込んでスープにします」。

セージは乾燥に強く、日当たりと風通しの良い環境を好みます。収穫は午前中の香りが最も立つ時間帯に。刈り取った枝は逆さ吊りにして風通しのよい日陰で乾燥させれば、長期保存が可能です。ひとつのハーブを日々の料理にリレーさせる発想が、キッチンガーデンを暮らしに溶け込ませる秘訣。同じ香りが、違う皿で、違う時間に顔を出す――そんな小さな循環が、日々の台所を楽しくしてくれます。

Q3. 失敗から学んだ、桑折さんが“絶対死守している”保存の3ルールとは?

「ルール①は、オイル漬けやペーストは、オイルをケチらず。全体がしっかり浸かるように。ルール②は、緑色のハーブは酸(レモン果汁やビネガー)を入れると変色するので、酸味は仕上げに。ルール③は、乾燥させるときは天日にあてない。風通しのいい日陰で短時間で」。

オイル漬けのポイントは“空気に触れさせない”こと。バジルやパセリは、軽く洗って完全に乾かしてから保存瓶へ。乾燥させる場合は、香り成分が飛んでしまうため直射日光はNG。ハーブ類はもちろん、きのこ類を乾燥保存する際はフードドライヤーを使うのもおすすめです。保存はテクニックより“香りを守る意識”が大切。失敗を重ねてわかる、桑折さんからのアドバイスです。

Q4. 季節ごとに“これだけは仕込む”というマイルールは?

「夏の唐辛子は、乾燥・オイル漬け・ビネガー・発酵唐辛子に。バジルはペーストにして冷凍。収穫野菜もフレッシュで食べきれないと思ったら、早めに加工するのが鉄則です。冬に旬を迎える大根は、皮も葉っぱも乾燥させるとさらにおいしくなりますよ」。

唐辛子は日当たりを好み、夏の強い陽射しにもよく耐えます。完熟後に収穫し、風通しのよい日陰でしっかり乾かすと香りと辛みが凝縮。バジルは霜が降りる前に一気に収穫し、ペースト化するのがベストです。

たくさん収穫できた野菜はビネガーに漬けてピクルスにするのもおすすめ。植物が季節の終わりを迎える前に“未来のごちそう”を仕込む。そのサイクルが暮らしを豊かにしてくれます。

Q5. 安全とおいしさ、その線引きはどうしていますか?

「保存容器の煮沸消毒は基本です。面倒に感じるかもしれませんが、必ず行いましょう。ペースト類は使う分ごとに小分けで冷凍。安心して食べられる量を、無理なく回すのが続けるコツです」。

煮沸した瓶やフリーザーバッグを使えば、余分な添加物は不要。バジルやミントなどの香りものは、冷凍しても風味が戻りやすい植物です。キッチンガーデンの保存は、旬の美味しさを未来にストックする発想で。自然のリズムに合わせて仕込み、香りを未来へつなぎましょう。

季節の記憶を呼び戻す、キッチンガーデンの保存術

育てた香りや旨みをどう生かすか。それは、暮らしの哲学そのものです。桑折さんの保存と加工のアイデアには、季節の恵みを無駄にしない知恵と、香りを愛でる感性が息づいています。

瓶詰めや冷凍庫の中には、過ぎた季節の記憶が小さく眠り、次の料理のアイデアが静かに芽を出しています。香りを閉じ込めることは、時間を大切にすること

キッチンガーデンの保存は、そんな“暮らしの余韻”を残す小さな魔法。ふたを開けた瞬間に立ちのぼる香りが、季節の記憶をやさしく呼び戻してくれます

馬渕信彦

編集・執筆業を中心に活動。和酒の魅力を伝えることをライフワークにしながら、アウトドア界隈にも頻繁に出没。地元・横浜で子どもたちと「みんなの畑」を再開墾し、「ツチる」を実践中。

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